全国のためにも最上無比の結構なる権理なれども、その権理の中には幾分か叛逆の精神を含みたるものなるにつき、もしその実践を誤れば名状しあたわざるところの争乱を醸すやあたかも阿片モルヒネに利用害用あるがごとし。
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と。しかして当時民権を唱うる人々の内心を分析してその私党心あるを説き、またこの人々の身分を評論して無産の士族なることを説き、ついに民権論の国乱を醸すに至るべきを揚言せり。しかれどもこの第四種の論派はあえて民権の道理に反対したるにあらず。ただ日本の国状を顧慮して民権を漸次に拡充すべきところを論じ、地方官会議の設置をもって民権拡充の一端となし、しきりに漸進の可なるを主張せり。吾輩はこの論者をもって当時政府の弁護者となすに躊躇せざるなり。しかれども当時の政府自身が民権の反対者にあらずして、むしろその味方たる実なきにあらず、ただその急漸の差あるに過ぎざるのみ。これが代表たる折衷民権論派はその前より他の論派とともに民権論を唱えたることはすこぶる多く、したがって世人をして民権なるものの本性を知らしめたることはかつて他の論派に譲らざりき。これ吾輩のここに民権論派の一種とし
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