年半ばごろ厳重なる法律を制定し、もって志士の横議を抑制したり。しかれどもこの法律は反《かえ》りてますます政論派を激昂せしめ、天下の人をしていよいよ政府の圧制を感知せしめたるの状なきにあらず。これよりその後、民権論なるものは青年志士の唱えて栄とするところとなるに至れり。
当時日刊新聞紙の業ようやく進歩し、いわゆる新聞記者なるものはかの激論的雑誌記者とともに政論を唱道したり。『横浜毎日新聞』、『東京日日新聞』、『郵便報知新聞』、『朝野新聞』、『読売新聞』の類はもっともいちじるしきものなりき。しかれども新聞紙はいまだ政論の機関となるに至らずして、おもに事実の報道に止まり、したがってその政論もまたやや穏和婉曲にてありき。民権論派の主義の大体を考うるに今日の民権説と少しくその趣を異にし、その立言はすべて駁撃《ばくげき》的よりはむしろ弾劾的に近く、道理を講述すというよりはむしろ事実を指摘するにあり。しかれどもその天下の人心を動かしたるにおいては吾輩しばらくこれを一の論派として算えん。彼らの言論に以為《おもえ》らく、「政府なるものは人民を保護するにあり、もし保護せずして反りてこれを虐遇するはこれを
前へ
次へ
全104ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
陸 羯南 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング