たり。しかれども社交的改革の必要よりして自然政治上に論及するは免るべからず。有名なるその著書『西洋事情』のごときは間接に新政論を惹起したるや明らかなり。吾輩はこの学者の政論を吟味するに際し、まずその社交上の論旨をここに想起し、氏が当時わが国において新論派中もっとも急激なる論者たることを示さん。
 反動的論派はたいていその正を得ること難し、福沢氏の説実に旧時の思想に反動して起こりたるもの多きに似たり、ゆえに公私の際を論ずれば私利はすなわち公益の本なりと言い、もって利己主義を唱道す。上下官民の際については双方の約束に過ぎず君のために死を致すがごときを排斥し、もって自由主義を唱道す。ことに男尊女卑の弊害を論じて故森有礼氏とともに男女同権論を唱えたるは当時の社会をしてすこぶる驚愕せしめたり、これらの点については福沢氏一派の論者実にもっとも急激なる革新論者たり。しかれども政治上においてはかの国権論派に比すればかえって保守主義に傾きたるもまた奇ならずや。この論派の政治主義は英国の進歩党と米国の共和党と調合をしたるもののごとし。彼社交上において階級儀式の類を排斥すれども、旧時の遺物たる封建制にははな
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