なるに驚きてほとんどその措くところを失いたり。識者間の考量もまたもっぱら国交上にありて、いかにして彼らと富強を均《ひと》しくすべきかの問題は、士君子をして解釈に苦しましめたるや疑いあらず。やや欧米の事情に通ずる人々はおのおのその知るところを取り、あるいは近時露土戦争の例を引き公法上彼のその国権を重んずるゆえんを説き、あるいは鉄道、電信等の事を挙げ経済上彼のその国富を増す理由を説き、もって当務者および有志者に報告したり。
ここにおいて一方には国権論派ともいうべきもの起こり、中央集権の必要を説き、陸海兵制の改正を説き、行政諸部の整理を説き、主として法制上の進歩を唱道せり。他の一方には国富論派ともいうべきものありて、正反対とまでにはあらざれども、士族の世禄を排斥し、工農の権利を主張し、君臣の関係を駁《ばく》し四民の平等を唱え、主として経済上の進歩を急務としたるがごとし。当時この二論派を代表したるははたして何人《なんぴと》なりしか。吾輩は今日より回想するに福沢諭吉氏は一方の巨擘《きょはく》にして国富論派を代表したるや疑うべからず。同氏はもと政治論者にあらず、おもに社交上に向かって改革を主張し
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