を感受したる時のごとし。
泰西における国民論派の発達
かかるはなはだしき挫折に対し争《いか》でかその反動の起こらざるべき。当時ドイツの学者ラインホールド・シュミード氏の著わせし記述にいわく、
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仏国のかかる待遇は久しく眠りたるドイツ国民的感情を喚醒するに至れり。一八〇六年において恥ずべき敗北を取りし後、ドイツ人はその屈辱を雪《そそ》がんがため国民的精神と言える造兵場につきて新兵器を捜索したり。さきに国民旨義を排斥して冷淡なる感情または狭隘なる思想とまでに公言したるフィフテ氏といえども、この実勢を見てかの有名なる演説、「ドイツ国民に告ぐ」と題する有名の演説をなし、切に国民的感情を喚起して、この感想あるにあらざれば、自国の安寧を保つあたわずとまでに切言したり。
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イタリアの学者ジョゼフ・ド・メストル氏の『外交通信録』もまた当時の著述に係れり。その一節に言えるあり、いわく、
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国民と言える事柄は世界においてゆるがせにすべからざる事柄なり。礼容においても感情においても、また利益においても、国民と言える思想は一日もゆるがせにすべからず、〔中略〕各国民を統一することは地図の上において別に困難を覚えず。しかれども実際においてはまったく反対なり。世にはとうてい混一すべからざる国民あり。現にイタリアの国民的精神は今日正に激動するにあらずや。
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かくのごとく欧州の諸学者は当時ナポレオンの軍事的勢力に反動して国民論派を拡張したり。この論派がついに勝利を占めて欧州諸国は互いにその特立を全うし、ドイツおよびイタリアのごときは当時非常の屈辱に遭いしにもかかわらず、今日は世界強国の中に算入せらる、これ一に国民的精神の発達に因らずんばあらず。
泰西国民論派の本領
泰西国民的精神の変遷すでにかくのごとし。その国民論派の功績またかくのごとし。されば泰西にありてはナショナリテーの原則をもって鎖国主義・攘夷主義となすものいまだこれあらざるなり。ただにこれあらざるのみならず、むしろこの原則をもってするにあらざれば自由および幸福を全うすべからず。また国民の進歩を望むべからずと言うに至る。けだし国民論派は排外的論派にあらずして反りて博愛的論派なり。保守的論派にあらずしてむしろ進歩的論派なり。百年前に現われたる旧論派にあらずして実に近時に生じたる新論派なり。わが国民論派の欧化主義に反動して起こりたるは、なお彼の国民論派の仏国圧制に反動して起こりたるがごときのみ。日本人民が欧州の文化に向かって伏拝したることはまさに欧州諸邦の人民が仏国の兵威に向かって伏拝したると同一般なり。されば国民論派の日本に起こりし原因はその欧州に起こりし原因と比較して、ただ文力と武力との差違あるに過ぎず。
日本における国民論派の大旨
世界と国民との関係はなお国家と個人との関係に同じ。個人といえる思想が国家と相容るるに難からざるがごとく、国民的精神は世界すなわち博愛的感情ともとより両立するにあまりあり、個人が国家に対して竭《つく》すべきの義務あるがごとく、国民といえる高等の団体もまた世界に対して負うべきの任務あり。世界の文明はなお社会の文明のごとく、各種能力の協合および各種勢力の競争によりてもってその発達を致すものたるや疑いなし。国民天賦の任務は世界の文明に力を致すにありとすれば、この任務を竭さんがために国民たるものその固有の勢力とその特有の能力とを勉めて保存しおよび発達せざるべからず。以上は国民論派の第一に抱くところの観念にして、国政上の論旨はすべてこの観念より来る。国民論派はその目的をかかる高尚の点に置くがゆえに、他の政論派のごとく政治一方の局面に向かって運行するものにはあらず、国民論派はすでに国民的特性すなわち歴史上より縁起するところのその能力および勢力の保存および発達を大旨とす。されば或る点よりみれば進歩主義たるべく、また他の点より見れば保守主義たるべく、けっして保守もしくは進歩の名をもってこれに冠することを得べからず。かの立憲政体の設立をもって最終の目的となすところの諸政論派とはもとより同一視すべからず。これすなわち国民論派の特色なり。
政事における国民論派の大要
国民的政治〔ナショナル・ポリチック〕とは外に対して国民の特立を意味し、しかして内においては国民の統一を意味す。国民の統一とはおよそ本来において国民全体に属すべきものは必ずこれを国民的《ナションナール》にするの謂なり。昔時にありてはいまだ国民の統一なるものあらず、そのこれあるがごときはただ外観に過ぎずして、さらに実相を見れば一種族・一地方または一党与の専恣たることを免れざるなり。帝室のごとき、政府のごとき、
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