り上げて子供達を追い散らした。韓青ビルの前あたりからは歩道にも夜店が出張っていて人々の流れで雑沓し、売子達の掛声が喧しく響き返っている。丁度その夜店並びの入口のところでは、物見高い連中に囲まれて白い頭巾をくるんだ百姓男が酔いつぶれたらしく手を振りつつ、何かを喉につまった声でしきりに喚いている。一体どうしたのだろうと首を出して覗いてみれば、男の傍には支械《チゲ》が立てられ、そこには大きな桃の花の一杯ついた枝々がのっかっていた。それで支械は花束に埋れた形で、首をうな垂れている花々はいかにもいたいけである。
「わっしあ嬶《かか》を貰った年に二人でこの桃の木を植えたんでがす。その嬶が死にやがっただ。その嬶がよ」と百姓は叫んだ。「白米の重湯が食べてえちゅうので地主さんところへ借りに行った間に死にやがっただ。さあ、わっしあ桃の枝をぶった切って担いで来たんでがすぞ、買って下せい、一枝二十銭、多くはいらねえ、二十銭でええ」
山をなす人々は面白そうに顔を見合わせながらげらげらと笑い合った。玄竜は懐手をしたまま人垣を押して中の方へぬっと現われ出た。そこで暫くの間目尻を下げて、いかにも感慨無量といった様子
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