彼は戸を開けてしきりにすすめ出した。
二人は仕方なしに手をとって乗り込んだ。動物園の入口まではいくらもなかった。
「どうですか乗り心地がいいでしょう」彼は私たちを下ろしながら云った。この純真な若者には今日という日がたのしくてならないのであろう。「ほかのお客さんもみんなそう云ってくれましたよ」
「そう、新しくて気持がいいですね」私は正直に云った。
そこで彼は満足して見事にハンドルを操り切り返しをやると、先刻のように指を一寸立てて別れを告げ、ぶーぶー警笛を鳴らして人を散らしながら河豚《ふぐ》のように走って行った。春雄はじっと立ったまま羨望に満ちたまなざしで車を見送っていた。私は何という恵まれたうれしい日だろうと考えた。
「李君は立派な運転手になったね。君は大きくなったら何になる積りだい」私は春雄を顧みながら楽しそうに質ねた。
「僕、舞踊家になるんだよ」彼はいきなり明るい声で叫んだ。
「ほう」私は驚いて彼を見つめた。一時に彼の体が光彩を放ち出した様に思われた。「舞踊家になるのか」ふとこれは実に素晴しい舞踊家になれるかも知れないぞと考えた。
「そうか」
「うん、僕、踊るのが好きだよ。だけど
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