自動車が私たちの傍へすうっと横着けになるのだった。
「おや」と思ってみると運転手台で李が新しい帽子の庇《ひさし》に一寸ばかり指を上げてにこっと挨拶をしてみせた。私も嬉しくなって彼の方へ近寄って行った。
「お目出度う、先程病院で君のお母さんが云ってましたよ。うまくいったそうですね」
春雄は別に悪びれずに私の傍へよりそうて来た。それを見て李は工合悪そうに目を逸《そ》らした。
「え、今先私も病院へ行って来たんですよ」それなら彼はそこで春雄にも会った筈だった。黒い美しい目をしばたたきながら、さすがに彼は悦びをつつみ隠せずに珍しくはしゃいだ。
「僕もやっと一人前ですよ、随分これはいい車でしょう。三七年型だけれどわりに新しいし、エンジンもしっかりしていますよ」
そこで鷹揚にセルモーターを踏んだ。私の目にはありきたりのフォード型でそれ程いいようにも思われなかったが、「成程いい車ですね」と答えた。「今日はこの春雄君と一緒に遊びに来たんですよ」そして少年を引き立てるように続けた。「今も僕は気が附かなかったが春雄君が教えてくれたんでね」
「どうです、ひとつ乗ってみませんか。動物園にでも行くんでしょう」
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