」と彼は妙にしょげて渋々《しぶしぶ》呟いた。「母ちゃんは血が出たら……いつもきざみ煙草を傷にはっていたんだもの、僕ちゃんと知っていたんだもの」
成程と私は思わず息をのんだが、どうしたことか驚きの色さえ顔にあらわすことは出来なかった。私の目先が急にぼうと霞んで来たような気持だった。×××××××××[#底本の注によれば、欠落した9字は初出では「半兵衛に打たれて」となっている]血を流しては、彼女はいたましくもきざみ煙草をつばで練っては、幾つも幾つも傷口にはりつけていたのに違いなかった。丁度彼女の郷里の百姓達がそんな風にして傷を治そうとするように。
「そうか」
私たちはいつの間にか交番に近い所まで来ていた。その傍に頑丈そうな体重計がおいてあった。私はそれを見ると、とりつくろうように振り向いて淋しく笑いかけながら計ってみないかと質ねた。すると彼は悦んで飛びのった。余りに激しい力を一時に受けたので針がてんてこ舞いをし始めた。案外重いようだった。その時春雄は何かに驚いたとみえ、私の方へ飛びかかりながら小さく指で大通りをさしてみせた。何だろうと思って彼のさしている方を振り向いてみると、丁度一台の
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