んだなあ」
そこからエレベーターで下りて来ると、一階の特売場で彼のアンダーシャツを一円で買った。彼はにこにこしながら包の紐を長くぶら下げて出て来た。
公園も珍しい人出であった。私達は石段を上って大通りに出た。こんもりとした木立は午後の淡い光をうけてものうそうに静かにゆらいでいた。空はどんよりと濁り風は折々高い木の梢に雨のような響きをたてている。だだっ広い大通りにはお上りさん風情の婦や男たちがぞろぞろと歩いていた。少年はいつの間にか新しいアンダーシャツに着替えて、ぼろぼろの上服を脇にかかえたまま、時々口笛などを吹き鳴らした。私は何とも云えない程彼がしおらしくなって来た。だが私はあまり彼に言葉をかけることが出来なかった。突然彼が私の袖を引きながら云った。
「先生云うのかい」
「何をだい」
見ると彼の目はいつものように猜疑と反逆の光をともしていた。私ははっと気がついた。煙草の一件を云うのだった。
「云うもんか、誰にも云いやしないよ、可哀そうな母ちゃんのために持って行ったんだもの、今日は実に君が善い行いをしたと先生は思っている位だ。母ちゃんは煙草が好きなんだろう?」
「好いていやしないよ
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