に肩をたたいてやった。「何だ、山田らしくもない。これからな、先生は協会へ帰って待っているよ。君が来たら昨日約束したように二人で上野へ遊びに行こうね」
彼はわーと泣き出した。私の心もゆらいでいた。だが病院の中にいるのは彼をますます窮屈にさせるだろうと思ったので、彼に病室を教えてから私は急いでそこから出て来た。そして何故彼が私の所から煙草を持って来たのだろうかといろいろと考えをめぐらしてみた。彼の母が吸うのだろうとしか想像がつかなかった。何という思わぬだしぬけたことをする少年であろう、私にはその時にも半兵衛が監房の中で上服を壁にかけてにたにたしていたことが思い出された。
五
一時間ばかりして山田春雄は再び私の前に姿を現わした。だが彼は指を口に咥《くわ》えたまま足元ばかり眺めていた。何だかすっきりした安堵もあるのだろうか。口元が今にも綻《ほころ》びそうにさえ思われた。何か素敵な事をした子供が大人の前でてれているようでもある。今まで彼の面上にこれ程素直な子供らしい影が現われたことがあろうか。彼はもうすっかり私を信じているのに違いなかった。だが私もひそやかに微笑を浮べるだけで何も訊
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