て彼の体を引き寄せた。彼は後手を放さなかった。それは何か白い小さな紙包を握りつぶして一生懸命に隠そうとしている。瞬間春雄は母のために何か持って来たのだなと私は思った。自分の母を見舞いに来ていながら人の前を憚《はばか》ったり、知られまいとしたりせねばならないのは、何と悲しいことであろう。私は寧ろ少年のそういう姿が何とも云えない程いじらしいものに思えた。私は云った。
「きっと母ちゃんが喜ぶよ」
 その時突然彼は私の体に頭を埋めながら啜り泣きをはじめた。
「莫迦だな」
 彼はますます激しく泣いた。その時どうしたはずみか白いもみくしゃになった小さな紙包がずり落ちた。私はそれを見て少からず異様な気持になった。きざみ煙草の紙包である。それは私が今朝起きた時に、机の上や抽斗《ひきだし》の中を随分さがしたがとうとう見附からなかった「はぎ」の古い包である。
「なあんだ、それで先生をこわがっているのか。ただ先生にそうことわって持って来ればよかったんだよ。さあ、これからそんなことは気を附ければいいんだ。それ、それ、母ちゃんが待っているよ、持って行っておやり、左側の三番目の部屋だよ」それから彼を元気附けるよう
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