は彼女等夫婦の日常の生活さえ想像することが出来そうに思えた。彼女は毎日いじめられるのであろう。すってんてんに転びながら合掌して拝むのに違いない。そういう所から春雄のような異質的な子供も出来た筈であった。妾は朝鮮人でありますと彼女はいかにも悲しく云っていた。彼女の方では又もしかすれば自分が内地人と結婚していることを一種の誇りと思って、この逆境に生きてゆくせめてもの慰めとしているのかも知れない。私は寧ろあの半兵衛に向って彼女が激しい憎悪をもっていることを期待し、そして同じ郷国から出て来た者として義憤の悦びに酔いたかった。だが私は見事に肩すかしを食わされたではないか。
「先生」
「え」
「妾、お願《ねか》いすることがあります」
「お話して下さい」
「お願《ねか》い……します。どうか妾の春雄の……相手をしないで……下さいませ」
「…………」私は黙ったままじっと彼女を見守った。彼女は今にも泣き出さんばかりの声であった。
「……春雄は……一人でもよく遊びます……」だが傷がひどくうずいて痛み出したのであろう、彼女は再び死者のようになった。だが又かすかに呻き声を出しながら「一人で……幾人の子供の……声
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