は私に対してはもはや温順しくなったが、しかし一緒に寝るのは私にはひどい苦痛だった。彼の口臭も我慢ならない程臭いけれど、何より一晩中股ぐらをごしごしかいて明かすのである。自分でも梅毒だと云った。私はもうそれが頭にまで来ているのだろうと考えた。いつかの夜半彼は妙にしんみりとなって私に質ねたものである。
「君は朝鮮のどこだい?」
「北朝鮮だ」
「おらは南朝鮮で生れたぜ」彼はずるそうに私の気色を覗《うかが》うのだった。そしてひーんと打ち消すように鼻で笑ってみせた。だが私は強いて驚くような気色を見せまいとした。
「そうか」
 すると彼は歯をむき出した。
「ほんとうだよ」
 勿論こういう話は二人でこそこそと云いかわすのだ。
「おらあの女房も朝鮮の女だぜ」
「ほう……」私は思わず目を丸くした。
 彼はいかにも小気味よさそうににやにやした。私は彼に何か訳合があるに違いないと考えた。
「朝鮮に行って貰ったのかい」
「おかしくって、面倒臭せえや。じかに洲崎の朝鮮料理屋に親方とかけ合いに行ってさ、この女をおらあの手に渡せ、でねえとこっちが承知しねえぞ、障子に火を附けてやらあとおどかしたんだ。すると野郎たち蒼
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