に驚いた。あ――これは又何ということであろう。私はこういう恰好をして寝ている半兵衛をどれ程長い間見て来たのか知れない。だらしなげにぽかんとしている口や、大きな目に老人のような隈がふちをえがいている様までも、父に丸うつしではないか。その子が又そっくり同じ様子をして私の傍に寝ているのだ。実に私はその半兵衛とは二カ月余りも同じ留置場に寝起きしていた。彼のことを思うだけでも背筋には冷っこいものが走るのを感じた。それは私が一層春雄を愛しているからである。私の脳裡には一瞬間、この変質的な春雄がしまいには父のような人間になりはせぬかという怖ろしい予感が走ってぞっと身慄いした。
思えば先年の十一月のことである、私がM署の留置場で半兵衛に会ったのは。その時彼はにやにやしながら私の方へ寄りかかって来た。皺《しな》びた馬面《うまづら》に大きな目がでれりとして薄気味悪い男だった。だがおや朝鮮人だなと私は思った。
「おう! お前のシャツ貸せ!」彼は私の洋服のボタンをはずしかけた。私は幾らか興奮していたので、無造作に振りきって隅の方へ腰を下ろした。他の連中は皆何かを気味悪く期待するような目附で、私たちをかわるが
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