だ、朝鮮人だ」と喚いているおでん屋の男と、貴様は一体何が違うと云うのだ。それは又自分は朝鮮人ではないと喚き立てる山田春雄の場合と本質的な所、何の相違もないではないか。私は毛色の違うトルコ人の子供でさえこちらの子供と角力をとりながら無邪気に戯れているのを見る。だがどうして朝鮮人の血を享けた春雄だけはそれが出来ないのだ? 私はその訳を余りにもよく知っている。だから私はこの地で朝鮮人であることを意識する時は、いつも武装していなければならなかった。そうだ、確かに私は今自分一人の泥芝居に疲れている。
 私は暫くの間そのまま茫然としていた。もう李はそこにはいなかった。私はよろめくようにして自分の部屋へ帰って来た。
 部屋は薄暗かった。私は春雄の寝床の傍へ近寄って行った。その時私ははっと驚いて目を瞠《みは》った。えびのように体をちぢかめて自分の右腕を枕にし目を半ば開いたまま寝ついている山田春雄の寝姿。私は思わず口に手をあてて声をかみ殺した。
「あっ、半兵衛の子だ!」とうとう私は思い出したのだった。今まで目の前にちらつきながらどうしても思い起せなかった、半兵衛。「半兵衛の子だ!」
 私は顛倒せんばかり
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