事をどうしたのか、まともに考えてみようとはしないのだった。私自身その怖ろしさにけおされていたのかも知れない。私はただ目を蔽いたかった。
その時に凄じい風が吹き附けて唸りを上げ、どーんと勝手口の扉が吹き飛ぶような音が無気味に響いた。一同はびくっとして息を殺した。近寄って行った婆やはあっと悲鳴を上げてたじろいだ。駆けて行って見れば、扉は倒れ雨と風の中に山田春雄が竦然《しょうぜん》として立っていた。折も折、稲光りがぴかぴか光ってそれは幽霊のようにおののいて見えた。
「どうしたんだ、春雄」私は彼を抱え込んではいって来た。そしてそのまま二階の自分の部屋へ上って行った。何とも云えない気持だった。ずぶ濡れになった着物を脱がし、タオルで体をふいて寝床へ横にさせた。彼の体はわなわなふるえていた。熱いお茶をやると何杯もがぶがぶ飲んだ。そこで漸く元気を取り戻して、悲しそうに私を見上げるのだった。私は何となく胸の中も打ち解けるような、ほかほか温かいしんみりとしたものを感じた。この少年は又どんなことがあって、こういう嵐の夜中をやって来たのであろう。
「病院へ行って来たのかい?」
彼は口をひくひくさせたかと思
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