女は私たちに護られながら小路をぬけた所にある古ぼけた相生病院に運ばれた。手術台にのせられた時にもほんの少ししか意識がないようだった。彼女は二言三言呻いたようだったが、はっきりと聞きとることが出来なかった。体の小さい、弱々しそうな女だった。指先は蝋のように真蒼で血の気も通っていないようだった。その傍で尹医師は矢部君の話に耳を傾けながら、いろいろな医具の準備をととのえていた。私は彼等が再び彼女の繃帯をほどこうとするのを見て静かにその部屋から出て来た。
外はだんだん険しい空模様になっていた。風が出て来た。藤棚の葉っぱが激しく揺れていた。
病院には半兵衛も春雄も現われなかった。
三
日の暮れる頃はもうどしゃ降りになっていた。ますます風もひどくなり、雨は桶を流したような威勢で降り出した。窓ががたがたふるえ電灯が明滅していた。子供は一人も来ていなかった。ただ二階で数学の授業がひっそりと行われているだけだった。
私は食堂の方で二三の同僚たちや婆やと山へ行った子供部のことを心配し合っていた。だが私の脳裡には先程起った事件のショックがやきついてどうしても離れなかった。と云っても私はその
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