ら、今に意識を返すのを待って、どこかほかの病院へ移さねばならないとのことだった。李はその話を聞くと真蒼になって声をふるわせ、亭主が何しろ半兵衛で鐚銭《びたせん》一文持たないごろつきであるから、入院などとても覚束《おぼつか》ない、助けると思ってここに治るまで寝かせてくれとすがり附いて頼んだ。
「先生、お願いです、僕の方でお粥だのそんなのは持ちますから、先生……」
だが実際のところここは医療部といっても、有志医学士が二三人昼間やって来て簡易治療にたずさわるという程度で、重傷患者を入院させるという程の所ではなかった。それで矢部君も暗然として首をひねりながら、私にどうしたものだろうと訊ねるのだった。私はすぐ近処の相生病院の尹医師を思い出したので、その方へ電話でお願いすることにした。それは貧民救済医院といったもので、資金が朝鮮の労働者たちのか細い懐から出ているだけに、朝鮮人にはいろいろ特典があった。丁度空いているベッドがあったために工合よく話がまとまった。それで再び彼女は担ぎ出された。もはや頭や顔には白い繃帯が何重にも厚ぼったく巻かれていた。それは丁度羽根のとれたとんぼのようにみじめだった。彼
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