めたのでしょう?」
彼は歯を食いしばった。
「そ、それは僕のお袋が朝鮮服を着ているからなんです。それで朝鮮人のところへ行くなってんです。へん、ふざけてらあ、莫迦《ばか》野郎奴が、あの前科者奴は何だと思うんです。たかがあいのこ[#「あいのこ」に傍点]じゃねえか」そして目の前に相手をおいたとでも云うように叫び声を上げた。
「野郎、覚えておくがええぞ、一度でも出会《でくわ》したなら、貴様の首ねっこはもうねえと思うんだぞ、やい、この半兵衛野郎!」
「え、半兵衛?」私は驚いて問い返した。
「そうです」彼は息を切らしながら云った。「ひどい悪党です、残忍な奴なんです、へん、だがな、今度こそ僕が承知しねえからな、野郎! 嬶の殺人罪をきせてやるからな」
「半兵衛」私は再び呟いてみた。どう考えてもそれは確かに私には耳なれの名前である。
「半兵衛、半兵衛」私は何度も口ずさんでみたが、記憶の中を空廻りするだけでどうしても思い起せなかった。
その時に医師の矢部君が出て来たので、私たちは彼の方へ駆け寄って経過をきいた。彼の話では生命には別状もないだろうが、何しろひどい刺傷でどうしても一カ月の入院治療は要するか
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