り乱し方にしろ、又この少年のいたましい叫び声にしろ、私はどちらも責められないような気持だった。その場へぐったりとして倒れそうであった。婆やが一先ず山田を連れ出したので、やっとその場が収拾のついたようなものである。李君は激しく罵るように皆の前で云った。
「あいつのおやじは博徒《ばくと》の人でなしなんだ。つい先日監獄から帰って来たんだ。その間あの気の毒な婦は飲まず食わずにどんなに苦しんだか知れないや。その間中僕のうちへ、近処でなつかしいもんだから、やって来ては御飯を貰って行ったんだ。だのにあの悪党野郎は監獄から出ると、僕の所へ自分の嬶《かか》がゆききをしていたというので、ひどいやきを入れちゃったんだ。助かりやしねえ、もう助かりやしねえんだ」
 彼はひーんと洟をかんだ。医療室から人が出て来て静かにしてくれるように云った。私は李を少しばかり離れた所へ連れて行きながら質ねた。
「君は山田春雄の家を知っているんですね」
「知っているもいないもないです」彼は忌々《いまいま》しそうに云った。「奴も駅裏の沼地に住んでいるんです」
「そうですか、随分ひどいもんだね。どうして君の家へゆききしたというのでいじ
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