故郷を想う
金史良

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)殆《ほと》んど

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大抵|蒼惶《そうこう》として

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)背伸びしようとするつた[#「つた」に傍点]が
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 内地へ来て以来かれこれ十年近くなるけれど、殆《ほと》んど毎年二三度は帰っている。高校から大学へと続く学生生活の時分は、休暇の始まる最初の日の中に大抵|蒼惶《そうこう》として帰って行った。われながらおかしいと思う程、試験を終えると飛んで宿に帰り、急いで荷物を整えてはあたふたと駅へ向った。それも間に合う一番早い時間の汽車で帰ろうとするのである。
 故郷はそれ程までにいいものだろうかと、時々不思議になることがある。成程郷里の平壌には愛する老母が殆んど独りきりで侘《わび》住居している。母はむろん、方々へ嫁いだ心美しい姉達や妹達、それから親族の人々も私の帰りを非常に悦んでくれる。庭は広くないが百坪程の前庭と裏庭がある。それが又老母の心遣いから、帰る度に新しい粧《よそおい》をして私を驚きの中に迎えるのだ
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