荷
金史良
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)叺《かます》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)苛性|曹達《ソーダ》
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棒の両端に叺《かます》を吊して、ぶらんぶらん担ぎ廻る例の「皆喰爺」が、寮の裏で見える度に、私は尹書房《ユンソバング》を思い出すのだ。
尹さんは少しはましのチゲ(担具)労働者である。然し土壇場にまで突き込まれて、喜劇ならぬかわった意慾の生活を弄《ろう》する点では、全く同じいだろう。
早朝起き上ると、尹さんは先ず自分の版図を検分し出すのだ。崩れかかった彼の小屋が、しょんぼり立つ低湿地の一帯は、書房の心の中では、彼の所領と定められている。地面に境界の線を引き廻ったりして、夢中になる。
終日街を出歩いて、三十銭も稼げぬことだろう。今日はどうでした? と夕頃つい出会って、問いかけでもしたら、彼は直様《すぐさま》癖の手を頭にやって、
「なあ学生さん」と嘯《うそぶ》くのだ。「偉え不景気でがしてのう」
彼は裸一貫である。何時かの述懐に依ると、二男一女が一時に熱病でやられているが、信用はおけない。唯《ただ》彼の女房が産褥で悶
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