死したことだけは、どうにか事実だと云われている。
今年の夏なども帰国すると、尹書房はどうして嗅ぎ付けたものか、最早その翌日には、庭先に件《くだん》のおどおどした体を現わしたことである。彼は喰ってかかる様に、突拍子に叫んだのだ。
「日本てとこさ、豊作ちゅうですな!」それから、歴とした小作農でもある様に、ぶつくさ愚痴をこぼした。「チェーギ堪《たま》らねえだ、籾《もみ》一斤五銭でやがらあ」
又或日の如きは、高潮した興奮の中で、すっかりせき込むのだ。……羽二重《はぶたえ》の見捨品を日本内地の工場から直接取り寄せて、大儲けをする者が居る。日本へ渡ったら、何とか取り計って呉れぬか。佐賀の居所は何処《どこ》だ。一筆走らして貰い度い、等と。然し次の瞬間、尹さんは先の仰山《ぎょうさん》な用件はけろりと忘れたものか、
「学生さん」と急に話題を変え、えへらえへらひょうきんに笑い出すのである。それはべらぼうな吐言の予告でもある。そして、彼はむきになって、村長と駐在所長とどちらが位の高いものだろうかと頭をひねった。私はつい苦笑すると、彼は益々顔面に深い皺《しわ》を刻んで、それ見ろ至極《しごく》難題で困ったろ
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