ては実に深いものとなるのであるが、しかし、所謂男性美といふものは多く浅薄で余はこれを好まない。
 扨てこれから美術に表はれた婦人の事を話すとしよう。
 余の最も感心してゐる婦人を描いた画の中、先づ、人に多く知られてゐるのはあのモナリザ・ヂヨコンドの肖像画である。これは今から三四百年前のイタリーのレオナルド・ダヴインチといふ人によつて描かれたものである。
 この画は実に深い。恐らくこの位見てゐて深い心地にさそはれる画は世界にさう沢山はあるまい。この画の感じは、完成の感じである。恐らくこの画位、全き完成の感じを与へる画は世界にさう沢山はあるまい。レオナルドは、この画を三年とかで描いたさうだ。そして、猶、自分では未完成のつもりでゐたさうだ。その途中でモデルの、モナリザ・ヂヨコンド夫人は長逝したのだ。
 しかし、前々からの画をみる時、其処に少しの未完成の感じを見出せない、完成されずしてゐる程に完成された感じがする。これは製作者の自作をより善きものにしたいと云ふ望みと、深い表現が出来れば出来る程、一層更に深い自然がみえて来るところの製作その一つの法則とによる事である。かくて第三者がみては実に完成
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