に近いと私はいつも思っている。妻や何かに知らせて、大さわぎしたら、座敷へ上って来るだろう、どうしようかと思っていると、忽《たちま》ち妻がひどい金切声《かなきりごえ》で「どうしましょう、あんなものが!」といった。これを聞くと同時に私は一足とびにすみの柱にかじりつく、皆も飛んで来て、私の上からしがみつく。するとその鬼が、上って来て、一人一人上からはがして行くのでないかという恐怖が全く実感的であった。それで眼が醒《さ》めたのだがこの時の妻の呼び声その言《ことば》等かなり実際的なもののように私は思うのである。
 ばけもの談大分永くつまらぬ事をかいた、この辺でこのばけものも消えようと思う。
[#地から1字上げ](大正十三年八月二日記)



底本:「岸田劉生随筆集」岩波文庫、岩波書店
   1996(平成8)年8月20日第1刷発行
底本の親本:「岸田劉生全集 第三巻」岩波書店
   1979(昭和54)年8月発行
初出:「改造 第六巻第九号」
   1924(大正13)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:鈴木厚司
校正:n
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