丁度その時分知人の家庭に少しゴタゴタがあったのだが、夢の中もそのゴタゴタのため、その知人の家へ私と家内とで行っているのである。八畳ほどの部屋で、中央に電気がついている。夜である。皆座敷に立ったまま何か話している、私の家内の他《ほか》にそこの主人とそこの妻君《さいくん》の四人であった。部屋の左手は襖右手は障子だがあけはなしてあって椽側《えんがわ》があり、その外は暗い庭である。私はふと右手の椽側を見るともなしに見たところ、其処に、へんな奴が立っている。それは鬼だが、顔の皮膚が丁度皮をむいた桜海老《さくらえび》の通りの色をしている、へんに生々しい感じである。別に画にみるようなトゲトゲはないが短かい角はある。髪はザン切りにしていた。それがひどく汚《よご》れた印袢天《しるしばんてん》風のものを着て、汚れたひもを帯の代りに締めている。胸が少しはだけているがその皮膚はやはり顔と同様桜海老である。手はだらんと下げていたがやはり同じ色と感じを持っている。そいつが実に黙って椽側の外に立っているのだ、私はこれはいけない、イヤナものが来たと、全く心底から思った。この感じは恐らくこういうものを見た時の実際の感じ
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