かばかり力うせにけむふみ見るすらもものうかりけり[#地から1字上げ]五月三十日
今ははや夕かたまけて蚊になやむ夏ともなりて病癒えざり
帰らじと思ひし旅ゆ帰り来てあはれあはれはや八年を経ぬる
いましばし生きながらへて世の様を寄る年波は見せずといふや[#地から1字上げ]六月十四日
今しばし生きてあらめと思へども寄る年波はかちがたきかな
わがいのち家苞となして帰りてゆあはれあはれはや八年を過ぐるか
けふこそは筆をとらなと思ひしに午をも待たで熱出でにけり
豆粕のこなをおやつに貰ひ受け喜ぶ孫ぞあはれなりける
心にも任せぬ身をし横へて夢に遊ぶや万里の空
[#地から1字上げ]六月十五日
井戸の底沈み果てつつ暮すとも生きてあらむとわれ願ひをり
頂きし君のみうたをよろこびてけふひねもすをうち誦じけり(石田博士へ)
もしも天われに許さば蒸したての熱き饅頭|食《た》べて死なまし
たのみにし夏はやうやう来ぬれどもわがいたつきは癒えむともせず
あづさ弓かへらぬ旅の門出かと谷底に落ちて骨を撫でをり
力なき身によぢ登るすべもやと谷底に落ちてひとりもがきつ[#地から1字上げ]七月四日
今ははや何事もみな成し了へて清く
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