ちぢこめゐたる首伸ばし
手足伸ばせば、
船ゆ港を望むごと
ふるさと見ゆる心地して心は勇む。

霜白き冬の朝、
しとしとと雪ふりつもる冬の夜、
空曇りて陽は見えず
寒き風吹きすさび
手足の血も凍り
骨も凍らんとする
冬の日を度るは、
ただひとり病める身の
草枕日くれて野辺にうちふし
異郷の旅に苦むごとし。

足袋ぬぎて
素足にて踏む畳こそ
わがふるさとのしるしなれ。
早暁起き出でて大気を吸へば
垂死の身もよみがへる。
窓の外《と》を見よ、
梅の実日にけにそだちつつ
夏も漸く近づけり。
船ゆ港を望むごと
わがふるさとは近づけり。
[#地から1字上げ]五月二十六日作

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小林君猛火に包囲されながら奮闘、同君の責任を負へる実業史博物館を辛うじて火災より救ひ出だせる由の通信を見て
[#ここで字下げ終わり]
猛火にも負けぬますらをふるひ立ち博物館を守り遂げしと
猛火にも焼けぬ君はも生きてあり尚ほ生きてありうれしかりけり[#地から1字上げ]六月三日

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病臥雑詠
[#ここで字下げ終わり]
今一度山川みたくおもへども尋《と》めゆく力うせにけるかも
いかなれば
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