なりけれ[#地から1字上げ]五月二十一日
窓の外《と》の梅の実ややにそだちけり物のいのちをたのもしと見る
今一度もの書くことの叶ふ身となりなばいかにうれしかるらむ
落つるがに衰へてゆくけはひやみ踏みとどまりて力やや湧く[#地から1字上げ]五月二十三日
陽の光こほしきあまり縁に出で空とぶ雲の行末を見守《まも》る
五月半ば真冬の着物ぬぎあへず夏来たる日を首あげて待つ
をし物のさはにありてふ国ならば往きて住まなと思ふこの頃
白波の寄するなぎさに腰かけてさんさんとふる陽をし浴びばや[#地から1字上げ]五月二十四日
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夏近づけり
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過ぎ去りし冬の寒さかりしには、この上もなき難渋を覚えたり。幸にして生き延び、ここに夏を迎へんとするに当り、健康やや恢復の兆あり、心身共に伸び伸びとして喜びを感ずること少からず
[#ここで字下げ終わり]
夏こそはわがふるさとなれ。
うす寒き二旬にわたる曇り日の
やうやう晴れて初夏の
陽の光やや強まるなべに、
重き※[#「糸+褞のつくり」、第3水準1−90−18]袍ぬぎすてて
厚き毛糸のシャツもぬぎ
痩せし身の重荷おろして
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