遂に七十三まで
生き延びたまひし由を知り
ひそかに心を安んじぬ
今年われ六十八
老衰頓に加はりて
早くも事に耐へず
人を煩はすのみの身となりぬれど
さもあらばあれ
希くはわれもまた上人にならひ
生死を自然に任せつつ
超ゆべくんば古稀の阪をし越えむ
[#地から1字上げ]五月二十一日清書

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去年秋金子君を通じて依頼せし半截物の表装中※[#二の字点、1−2−22]出来ず、年内にと云ひてうそになり、四月末までには是非にと云ひて、それもうそになる。恐らく代価を出し惜みする為めならむと思ひ、その由を金子氏まで申出でしが、あとにて余り我儘を云ひたりと気付き、いたく後悔す。乃ち歌二首を送る
[#ここで字下げ終わり]
くさぐさの我儘申し恥しや垂死老病の身と許したべ
あなあらばあなに入らばやさまざまのあやまち犯す身をし恥ぢ入る[#地から1字上げ]五月二十二日

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病床雑詠
[#ここで字下げ終わり]
かこつまじ国の行末もあす知れず老いらくの身のいかに成るとも
たかどのに錦のしとね重ねつつ行末憂ふる人もあるらむ
ひねもすを半ばいねつつすぐる身は夢見ることぞくらし
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