ゆるばかりにほそりゐし灯火のいままたもえつづく
今ははや終りならめと諦めてゐたりしいのち尚もつづくか
陋巷に窮死するにふさはしき我を棄てじと訪ひくる君はも
死ぬもよし生きなば更によからむと残りのいのち君に任せつ
来む春に逢はむ望もたえたりと諦めし日に君と逢ひけり
今更に為すある身にはあらねども恵みをうけて尚ほ生きてをり
生くとても為すこともなき老いの身は君の恵《めぐみ》の勿体なくして
願はくは君が恵みに力えてまた都門の外《と》にも出でばや
枯れ果てし老いらくの身も冬を経てまた来む春に逢ひ得なむかも[#地から1字上げ]十月十八日
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病床雑詠
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今ははや再び起たむ望みなしいざやしづかに死を迎へなむ
窓により外ながむればスタスタと道ゆく人のなほ羨まし
[#地から1字上げ]九月二十日
いざわれも閻魔王庁にまかりいで無条件の降服なさむ
われ生きてあらむ限りは生きてゐよとたらちねの母はせちにのらせども[#地から1字上げ]九月二十一日
知恩院の鐘が鳴るかやゆふぞらに遠く尾をひき消えてゆくなり
わが床を階下にうつし臨終の床となさばや今日より後は
[#地か
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