ばれても行く力なき先生あはれなり
蝕める杖折れしがに腰くだけ這ひありく身とわれなりにけり
何事もまだきに来れ日を経なばいや待ちがてのわがいのちぞも
今一度旅にいでまく思へどもいねて旅する日はいつの日ぞ[#地から1字上げ]九月十五日
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この数日疲労頗る著し。秀の言ふに、もはやとても電車にすら乗られうるからだにあらず、たとひ勧めらるるとも西賀茂などへ行かるべきかは、未練がましき挨拶をせず、かかる類の人の勧めは綺麗に辞退し、こころ静かに、気の向くままに、家の内にて起居しをるべしと。余之を聞いて洵にもつともの忠告なりと思ひ、かれこれ未練がましき夢を描き居たりしも、この際綺麗に諦めむと、心に定む。乃ち数首を得たり
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日を経るも元の力はかへり来ずいざあきらめて家にこもらむ
むしばめる杖をれしがのうつせみの元にかへらむ力あらなくに
足腰も立たぬむくろとなり果てて夢なほ多きわがうらみかな
今ははやあきらめてよき時節なり長く生きよと君云ふなかれ[#地から1字上げ]九月十六日
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雑詠
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大風の吹きにしあとの遠山
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