あなうれしとにもかくにも生きのびて戦やめるけふの日にあふ
あなうれしうれしかりけり生きのびて戦やめるけふの日にあふ
いざわれも病の床をはひいでて晴れゆく空の光仰がむ
計らずも剣影見ざる国内《くにぬち》にわれ住み得るかいのちなりけり
昨日までおびえつ聞きし飛行機の爆音すらもなごみわたれり
運よくも物一つ焼けず怪我もせず戦やめるけふの日にあふ
大きなる饅頭蒸してほほばりて茶をのむ時もやがて来るらむ
いざわれもいのちをしまむながらへて三年四年は世を閲さなむ
けふの日を誰にもまして喜ぶは先生ならめと人は云ふなり
けふの日を喜ぶ権利もたす君喜びてませと人は云ふなり
思いきやいのちたもちてわれもまた今日の此の日に相逢はむとは
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うれしきは(その三)
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うれしきはガラス戸越して望月のさし入る夜半にふとめざむとき
うれしきは金色《コンジキ》なせる夕雲に仏の国を思ふとき
[#地から1字上げ]八月二十六日
うれしきはよきふみよくよみよき人のよきここ〔ろ〕ざしよくさとるとき[#地から1字上げ]八月三十日
うれしきは早暁起きて喞々《ショクショク》と秋の虫鳴く声
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