てしもあらぬ蒼海を汽船にのりて日ごとゆくとき
うれしきは届かぬものと決めてゐし小包つきて封をば解くとき
うれしきはよき点とりて孫の子が通知簿出して見せくるる時[#地から1字上げ]八月十日

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うれしきは(その二)
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うれしきはめさめてすぐにさつきつめ銀のきせるに煙吸ふとき[#地から1字上げ]八月十一日
うれしきは物を贈りて貰ふ人うれしうれしとよろこべるとき
うれしきは欲しき物食はで分けてやり喜ぶ孫の顔を見るとき
うれしきはついでに食べと老妻に夕餉の残りさはにとらすとき[#地から1字上げ]八月十二日
うれしきは黒き屋根超えむらさきの西山遠く眼にうつるとき
うれしきは長居の客の去りゆきておくれしひるげうまく食ふとき
うれしきは夕餉うまく食ひ了へて二階の縁にすずみゐるとき
うれしきはふと眼を上げて夕空にかがやき初むる月を見しとき[#地から1字上げ]八月二十一日
うれしきは声高らかに只今と帰れる孫の声を聞くとき[#地から1字上げ]八月二十三日

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平和来たる
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――八月十五日――
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