はぬ里の月を見るわれ
荷車にあまたつみけるかぼちや見て欲しき物ぞとわれも思ひぬ
朝露のまだひぬ畑の茄子の色濃き紫はうつくしきかも
[#地から1字上げ]七月三十日
わづか五日目方増して帰りしがわづかのうちにまた痩せにけり[#地から1字上げ]八月二日

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雑詠
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北隣り夾竹桃の花咲きてわが階上の窓うつくしき
われ食めば妻子《めこ》のかて減す道理ぞと知りつつなほも貪りてをり[#地から1字上げ]八月二日
みみたぶにうなりよる蚊の声すらも聞えずなりぬ今年の夏は[#地から1字上げ]八月五日
ねころびて夕空見れば大きなる二匹の蜘蛛の巣をかけてをり[#地から1字上げ]八月六日
まけいくさ尚ほやめずして人はみな飢えてかつえて痩せしほれけり[#地から1字上げ]八月十三日

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うれしきは(その一)
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橘曙覧に倣ふ
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うれしきは峠の茶屋につきたての大福食ひてばんちやのむとき
うれしきは思はぬ時に人の来て食べてくれよとお萩出すとき
うれしきは表装成りて拙かる書も引き立ちて見られ得るとき
うれしきはは
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