字上げ](十月五日)
五の三
加藤《かとう》内閣ができるはずに聞いていたのが、急に寺内《てらうち》内閣が成立しそうなという話なので、平生当面の時事には無関心のこの物語の筆者も、ちょっとだまされたような気持ちがする。しかしそれはそれとして、私はこの物語の本筋をたどるであろう。
さて私が前回に葉切り蟻《あり》の話をしたのは、昆虫《こんちゅう》社会にもなかなか経済の発達した者がいるという事を示さんがためであった。わずかに一例をあげたにとどまるが、ただこの一例に徴するも、もしわれわれが太古野蛮の時代にさかのぼってみるか、または今日でも未開地方に住む野蛮人の状態について見るならば、ある方面ではかえってわれわれ人間の方が蟻などよりもだいぶ劣っているかと思われる事情があるのである。しかるにもかかわらず、今日われわれ人間の経済が次第に発達を遂げ、ついに今日のごとき盛観を呈するに至ったのは、実はその根底、その出発点において、ある有名なる特徴を有するがためである。今その特徴をなんぞやと問わば、そは道具の製造という事である。この事はかつて本紙に連載せし「日本民族の血と手」と題する拙稿(
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