ぶるいとまをもたぬが、またその必要もない。一言にして言えば七十歳以上の老人には国家に向かって一定の年金を請求するの権利ありと認めたること、これがこの法律の要領である。原案には六十五歳とありたれども、経費の都合にてしばらく七十歳と修正されたのである。今この法律についてわれわれの特に注意すべき点は、年金を受くることをば権利として認めたことである。人は一定の年齢に達するまで社会のために働いたならば、――農夫が五穀を耕作するは自分の生活のためなれども、しかしそのおかげで一般消費者は日々の糧《かて》に不自由を感ぜざることを得《う》る、鉱夫の石炭を採掘するもまた自己の生活のためにほかならざれども、しかしそのおかげでわれわれは機械を動かし汽車を走らせなどすることを得る、この意味において、夏日は流汗し冬日は亀手《きしゅ》して勤苦《きんく》労働に役《えき》しつつある多数の貧乏人は、皆社会のために働きつつある者である、――年を取って働けなくなった後は、社会から養ってもらう権利があるという思想、この思想をこの法律は是認したものなのである。それゆえ、たとい年金を受くるも、法律はその者を目して卑しむべき人となさ
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