下で聞いていた乞食のせがれが、さてさてお侍だなんて平生大道狭しと威張っていくさるくせに商人ふぜいの者に両手をついてまであやまるとはなんとした情けない話であろう、いくら偉そうに威張っていたところで債鬼に責められてはあんなつらい思いもせなければならぬとすればつまらない、それを思うとわれわれの境界は実に結構なものだ、借金取りがやって来るでもなければ、泥棒《どろぼう》のつける心配もない、風が吹こうが雨が降ろうが屋根が漏る心配も壁がこわれる心配もない、飢えては一わんの麦飯に舌鼓をうち、渇しては一杯の泥水《どろみず》にも甘露の思いをなす、いわゆる
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一鉢千家[#(ノ)]飯 孤身送[#(ル)][#二]幾秋[#(ヲカ)][#一] 一鉢《いっぱつ》千家の飯、孤身幾秋をか送る
冬[#(ハ)]温[#(ナリ)]路傍[#(ノ)]草 夏[#(ハ)]涼[#(シ)]橋下[#(ノ)]流[#(レ)] 冬は温《あたた》かなり路傍の草、夏は涼し橋下の流れ
非[#(ズ)][#レ]色[#(ニ)]又非[#(ズ)][#レ]空[#(ニ)] 無[#(ク)][#レ]楽復無[#(シ)][#レ]憂 色《しき》に非ず
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