類社会より貧乏を退治せんことを希望するも、ただその貧乏なるものがかくのごとく人の道を聞くの妨げとなるがためのみである。読者もしこの物語の著者を解して、飽食暖衣をもって人生の理想となすものとされずんば幸いである。
著者経済生活の理想化を説くや、高く向上の一路をさすに似たりといえども、彼あによくその説くところを自ら行ない得たりと言わんや。ただ平生の志を言うのみ。しかも読者もしその人をもってその言を捨てずんば、著者の本懐これに過ぐるはあらざるべし。
巻頭に掲ぐるところの画像は、経済学の開祖アダム・スミスの肖像である。今や氏の永眠をさること百有余年、時勢の変に伴うて学説の改造を要するものもとより少なからずといえども、いやしくも斯学《しがく》を攻究する者にして氏の学恩をこうむらざる者はほとんどまれなり。ことにその潜心窮理の勝躅《しょうちょく》に至っては、ことごとく採ってもって後学の範となすべきものがある。すなわちその画像を巻首に載せ、いささか追慕の意を表する次第である。原図はアダム・スミス永眠後二十年、すなわち一八一一年の十一月二十五日、ロンドンなる一書林より発売せし一枚売りの肖像にして、現
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