ディーにおける蟄居《ちっきょ》六年間の彼の仕事は、倫理学者としての殻《から》を打ち割り、自己多年の面目を打破し、自己の力により自己の身を化して有史以来いまだかつて有らざりしところの全く新たなる種類の学者たる経済学者なるものを産み出さんがための努力であったのである。この意味においてアダム・スミスはわが経済学の創設者である。正統経済学の第一祖である。
[#地から1字上げ](十一月二十九日)

       九の五

 アダム・スミス以前にも、貨幣、商業及び土地の改良等につき有力なる論著は少なからずあった。しかしながら、これらのものは皆当面の事件をただ時事問題として取り扱ったのであるから、いずれも一時的のかつ離れ離れの、相互の間になんらの連絡統一なきものであった。それをばスミスは利己心是認の思想をもって連絡統一し、これに向かって組織的の解釈を下したので、それが彼の生命の大半を奪った仕事であった。しかし彼自身の生命が失われたために、死んだ離れ離れの材料に生命が流れて、始めて経済学という一個独立の学問が産まれたのである。彼が今日に至るもなお経済学の父と呼ばるるはこれがためである。
 彼は各個人が
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