間引き続いて過度の勉強思索にふけったのであるから、はなはだしくその健康を害するに至ったのは、自然のなりゆきのようでもあるが、しかしそれにしても、彼は当時毎年充分の年金を得ていて、衣食のためにはかつて心を労する必要がなかった上に、おいおい年をとって来たとはいえ、ロンドンに向かって出発する時はまさに五十歳に過ぎなかったのである。いくら過度の勉強思索にふけったとはいえ、旅中にいつ死ぬかもしれぬと感ずるまでに弱り果てたというのは何ゆえであるか。これがすなわち私の疑問であって、私はこれに一応の解釈はつけながら、今日までなお充分の満足を得ざりし者である。しかるに近ごろになって私はようやくこの疑問を全く氷釈し得たるがごとくに思う。
けだしスミスは元来倫理学者である。その倫理学者が倫理学者として経済問題の攻究に従事しておるうちに、彼は経済上における利己心の活動を是認することにより、ある意味において、経済上におけるいっさいの人の行為を倫理問題の埒外《らちがい》に推し出したものである。かくて彼は倫理学以外に存立しうる一個独立の科学としてわが経済学を建立し、自らその初祖となったものである。すなわちカーコゥ
前へ
次へ
全233ページ中131ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
河上 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング