まず一日三千五百カロリーの熱量を発するだけの食物を取ればよいということがわかっておる。有名なるローンツリー氏の貧民調査などはすなわちこれを標準としたものである。ここに一カロリーというは、水一キログラム(すなわち二百六十七匁)を摂氏の寒暖計にて一度だけ高むるに要する熱の分量である。けだしわれわれ人間のからだはたとえば蒸気機関のごときもので、食物という石炭を燃やさなければ、この機械は運転せぬのである。そこでそのからだという機械の運転に必要な食物の分量は、これを科学的に計算するに当たりては、米何合とか肉何斤とか言わずに、すべてカロリーという熱量の単位に直してしまうのである。
しからば人間のからだを維持するにちょうど必要な熱の分量はこれをいかにして算出するかというに、これについてはいろいろの学者の種々なる研究があるが、試みにその一例を述ぶれば、監獄囚徒に毎日一定の労働をさせ、そうしてそれに一定の食物を与えて、その成績を見て行くのである。最初充分に食物を与えずにおくと、囚徒らは疲労を感じて眠《ねぶ》たがる。何か注文があるかと聞くと、ひもじいからもっと[#「もっと」に傍点]食べさしてほしいと言う
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