フごとく述べてある。
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「われわれは、一九一四年という年は経済史上の一転機を画するもので、全く新たなる時代が、われわれの経済生活の上に、この年とともに始まったものと考えざるを得ざるに至った。そうしておそらくわれわれは、この新たなる時代をば、第十九世紀に行なわれた資本主義に対し、社会主義の時代と称せざるを得ぬであろう。」[#地から1字上げ](十二月二日)
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* Plenge, Wirtschaftsstufen und Wirtschaftsentwickelung.  (Annalen f. soc. Pol. u. Gessetzg., IV. Bd. 5 & 6 Hft. S. 495.)
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       十の二

 開戦以来ドイツが経済上の経営において着々国家主義を実行しつつあることは、すでに諸君の熟知せらるるところと思うが、話の順序だから、その一例として、パン及びパン用穀物につきドイツの実行したる政策の一斑を述べんに、ドイツ政府は昨年(一九一五年)の一月二十五日にまずパン用穀物及び穀粉類の差し押え及び専売を断行している。当時の布告文に「連邦参議院の決定により全帝国を通じてすべての種類のパン用穀物及び穀粉はこれを差し押うることとす。……すべてのパン粉は町村団体に対しその給養すべき人口の割合に応じて分配すうんぬん」とあるが、すなわちそれである。かくのごとく全国にわたってパンの原料を国有とすると同時に、これが分配に関しては、すべての人民を通じて一日一人の消費量をば二十五グラムと定め、これに馬鈴薯《ばれいしょ》の澱粉《でんぷん》を加えて一週間二キログラムの割合をもって給付することに決定したのである。かのパン切符などいう制度もこれがために起こったのであって、上は皇室及び皇族家を始めとし下は庶民に至るまで、すべて家族数に応じてパン切符の配付を受け、この切符なくしては何人もパンを口にすることができなくなったのである。東京大学の渡辺《わたなべ》教授はこれを評して「まさしく政府の権力をもってする社会主義の実行である」と言っておられるが(同氏著『欧州戦争とドイツの食料政策』九八ページ)、社会主義の語が避けたければ、これを国家主義の実行と言ってもよいのである。
 こ
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