。そうして体量を秤《はか》って行くとだんだんに減ずるのである。そこで次には食物の分量をずっと[#「ずっと」に傍点]ふやしてみる。そうすると体重はふえだす。何か注文があるかと聞くと、今度はもう少しうまい[#「うまい」に傍点]物を食べさせてほしいというようにぜいたくを言いだす。食物に対する欲求が分量から品質に変わって来る。英国のダンロップ博士がスコットランドの囚徒について試験したのはこの方法によったものであるが、この時の成績(一九〇〇年パリーに開催されたる第十三回万国医学大会において報告)によると、二個月間毎日三千五百カロリーの熱量を有する食物を与えておいた時には、普通の体重を有する囚徒のうち約八割二分の者は次第にその体重を減じて来たが、三千七百カロリーの熱量を有する食物を与えてみると、約七割六分の者は次第にその体重を増加するかまたは維持することができたという。すなわちこの時の試験によると、三千五百カロリーの熱量を有するだけの食物では少し不足だという事になるのだけれども、しかし試験に供せられた囚徒は日々石切りを仕事としている者で、相当激しい労働に従事していたわけなので、現にダンロップ博士自身も普通の人で軽易な仕事をしておる者には三千百カロリーの食物で充分だろうと言っているのである。そこでローンツリー氏の貧民調査などでは、前に述べたごとく三千五百カロリーをもって普通の労働に従事せる大人《おとな》の男子に必要な一日分の熱量と見なしたのである。[#地から1字上げ](九月十三日)

       一の三

 西洋と日本とにては気候風土も同じからず、また西洋人と日本人とにては人種体質も異なる次第なれば、一概には定めがたけれども、前回に述べしようの方法にて、西洋にては男子の大人《おとな》にて普通の労働に従事する者は、一日約三千五百カロリーの熱量を有する食物を摂取せば可なりということ、ほぼ学者間の定説である。よりてこれを大体の標準となし、女子ならばいかほど、子供ならばいかほどというように、性及び年齢に応じて、それぞれ必要な食物の分量を決めて行くのである。
 ちなみにいう、先の大統領タフト氏を総裁とせる米国生命延長協会の校定に成れる『いかに生活すべきか*』を見るに、一日一人の所要熱量をば約二千五百カロリーとしてある。すなわちこれに比ぶれば、前に述べたるローンツリー氏らの標準ははなはだ過
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