「春風が柳を吹いて、緑は糸の如く、晴れた日は、紅を蒸して小桃を出すと云ふが、小桃が紅萼を発いたので、却て春に勝《た》へられない風情がある。そして綾錦羅綺の中に、解語の第一人がある」。凡そ此の種の講釈本をたよりに、漢詩を味ふことの如何に難きかは、之によつて愈※[#二の字点、1−2−22]悟るべきである。
○放翁自身の詩にも次のやうなのがある。序に書き添へて此の稿を了ることにしよう。
[#ここから2字下げ]
西村一抹[#(ノ)]煙、  柳弱[#(ク)]小桃妍
要[#レ]識[#二]春風[#(ノ)]處[#一]、  先生※[#「手へん+主」、第3水準1−84−73]杖[#(ノ)]前
[#ここで字下げ終わり]
  八月に入りてより屡※[#二の字点、1−2−22]高熱を発し、九月に入るも未だ癒えず。病間この稿を成す。
[#地から3字上げ]昭和十六年九月九日  閉戸閑人



底本:「河上肇全集 20」岩波書店
   1982(昭和57)年2月24日発行
底本の親本:「陸放翁鑑賞 下巻」三一書房
   1949(昭和24)年11月発行
入力:はまなかひとし
校正:今井忠夫
2004年5月18日作成

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