放翁鑑賞
その七 ――放翁詩話三十章――
河上肇

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)此は但《た》だ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)相|与《とも》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]

 [#…]:返り点
 (例)四月熟[#二]黄梅[#一]

 [#(…)]:訓点送り仮名
 (例)五月臨[#(メバ)]
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渭南文集五十巻、老学庵筆記十巻、詩に関する
説話の散見するものを、拾ひ集めて此篇を成す。
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      放翁詩話

       (一)

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 呉幾先嘗て言ふ、参寥の詩に五月臨[#(メバ)][#二]平山下路[#一]、藕花無数満[#(ツ)][#二]汀洲[#(ニ)][#一]と云へるも、五月は荷花の盛時に非ず、無数満汀洲と云ふは当らず、と。廉宣仲云ふ、此は但《た》だ句の美を取る、もし六月臨平山下路と云はば、則ち佳ならず、と。幾先云ふ、只だ是れ君が記得熟す、故に五月を以て勝《まさ》れりと為すも、実は然らず、止《た》だ六月と云ふも亦た豈に佳ならざらんや、と。(老学庵筆記、巻二)
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       (二)

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 杜子美の梅雨の詩に云ふ、南京犀浦道、四月熟[#二]黄梅[#一]、湛湛[#(トシテ)]長江去[#(リ)]、冥冥[#(トシテ)]細雨来[#(ル)]、茅茨疎[#(ニシテ)]易[#レ]湿、雲霧密[#(ニシテ)]難[#レ]開、竟日蛟竜喜、盤渦与[#レ]岸回と。蓋し成都にて賦せる所なり。今の成都は乃ち未だ嘗て梅雨あらず、惟《た》だ秋半積陰、気令蒸溽、呉中梅雨の時と相類するのみ。豈に古今地気同じからざるあるか。(老学庵筆記、巻六)
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       (三)

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 欧陽公の早朝の詩に云ふ、玉勒争門随仗入、牙牌当殿報班斉と。李徳芻言ふ、昔より朝儀未だ嘗て牙牌報班斉と云ふ事あらずと。予之を考ふるに、実に徳芻の説の如し。朝儀に熟する者に問ふも、亦た惘然、以て有るなしと為す。然かも欧陽公必ず誤まらざらん、当《まさ》に更に博《ひろ》
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