古句に比して蓋し益※[#二の字点、1−2−22]|工《たくみ》なり。(老学庵筆記、巻八)
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       (二十六)

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 杜詩の夜闌更秉燭、意は夜の已に深きを謂ふなり。睡るべくして而かも復た燭を秉る、以て久客帰るを喜ぶの意を見る。僧徳洪妄云ふ、更は当《まさ》に平声に読むべしと。なんぞ是あらんや。(老学庵筆記、巻六)
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○杜甫の詩は羌村(村の名、当時杜甫の妻子の寓せし地)と題するもので、その全文は次の如し。
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崢※[#「山+榮」、第3水準1−47−92][#(タリ)]赤雲[#(ノ)]西、  日脚下[#(ル)][#二]平地[#(ニ)][#一]
柴門鳥雀噪[#(ギ)]、  歸客千里[#(ヨリ)]至[#(ル)]
妻孥怪[#(ミ)][#二]我[#(ノ)]在[#(ルヲ)][#一]、  驚[#(キ)]定[#(マツテ)]還《マタ》拭[#(フ)][#レ]涙[#(ヲ)]
世亂[#(レテ)]遭[#(ヒ)][#二]飄蕩[#(ニ)][#一]、  生還偶然[#(ニ)]遂[#(グ)]
鄰人滿[#(チ)][#二]墻頭[#(ニ)][#一]、  感歎[#(シテ)]亦[#(タ)]歔欷[#(ス)]
夜闌[#(ニシテ)]更[#(ニ)]秉[#(リ)][#レ]燭[#(ヲ)]、  相對[#(シテ)]如[#(シ)][#二]夢寐[#(ノ)][#一]
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 徳洪妄は更字をさらにの意に読まずに、こもごもの意に読まさうとしたものと思はれる。

       (二十七)

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 老杜の哀[#二]江頭[#一]に云ふ、黄昏胡騎塵満[#レ]城、欲[#レ]往[#二]城南[#一]忘[#二]城北[#一]と。言ふこころは方に皇惑、死を避くるの際、城南に往かんと欲して、乃ち孰《いづれ》が南北なるやを記する能はざる也。然るに荊公集句両篇、皆な欲往城南望[#「望」に白丸傍点]城北と作《な》す。或は以て舛誤となし、或は以て改定となす、皆な非なり。蓋《けだ》し伝ふる所の本、偶※[#二の字点、1−2−22]《たまたま》同じからず、而かも意は則ち一なり。北人は向を謂ひて望となす。城南に往かんと欲して乃ち城北に向ふと謂ふは、亦た皇惑、死を避け、南北を記する能はざるの意なり。(老学庵筆記、巻七)
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