はだ》
まなかひの峰に虹たち入日さし時雨の雲は西より晴れ来《く》
黄にみのり半ばはすでに刈られある稲田のくろを尼かへりくる
いのちありて名のみ聞きゐし大原の寂光院をけふぞ見にこし
のぼりきて院のみぎりにわれ立てばかけひの音のさやに聞こゆる
ひるくらきみ堂のうちを案内《あない》して若き尼僧の声もさやけき
あないせる尼僧のともすらふそくのゆらぐほのほにうかぶ御《おん》像
ひとたびはをさなみかどのおんあとをうみにいりましし建礼門院
思ひ見れば寿永の涙たまなしてなほこの堂ぬちにおちゐたりけむ
荒波のとよむにも似て松風の吹きすさぶ夜の夢の浮橋
深山辺《みやまべ》に豊明《とよのあかり》をいやとほみ人老いにつつ月にみたたす
ここにしてつひのやどりとねむりたる人のいのちはただ詩のごとし
合掌の阿波の局の木像は安徳の御衣《ぎよい》を纏ふと云ふも
石仏《いしぶつ》は三万の小《こ》ほとけむねにいだきもだしつつ立たす今に八百年
赤黄青|三段《みきだ》に染まるかへるでの濃染《こぞめ》の色は見しこともなし
いにしへを見つつ偲《しぬ》べと枯葉ちる池のほとりの石蕗《つはぶき》の花
京になきうまきお萩と門前《もんぜん》
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