んば真実を語るべし、
言ふを得ざれば黙するに如かず。
腹にもなきことを
大声挙げて説教する宗教家たち。
眞理の前に叩頭する代りに、
権力者の脚下に拝跪する学者たち。
身を反動の陣営に置き、
ただ口先だけで、
進歩的に見ゆる意見を
吐き散らしてゐる文筆家たち。
これら滔々たる世間の軽薄児、
時流を趁うて趨ること
譬へば根なき水草の早瀬に浮ぶが如く、
権勢に阿附すること
譬へば蟻の甘きにつくが如し。
たとひ一時の便利身を守るに足るものありとも、
彼等必ずや死後尽く地獄に入りて極刑を受くべし。
言ふべくんば真実を語るべし、
真実の全貌を語るべし、
言ふを得ざれば黙するに如かず。
[#地から1字上げ]十月九日

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芳子洵子をつれ上海に向けて立つ
[#ここで字下げ終わり]
たちてゆく孫に分れて子に分れ跡のさびしさ物をも読まず[#地から1字上げ]十月十日

[#ここから4字下げ]
「祖父河上才一郎」の稿を了へて
[#ここで字下げ終わり]
こもりゐてうまれぬさきのおほちちの畢生《ひつせい》かけばすがためにみゆ
みもしらぬその畢生をかきをへてこひしくなりぬなきおほちちの
をさなご
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